機能性表示食品のこれから ― 制度成熟への歩み
投稿日:2025.10.29
更新日:2025.10.29
2015年に創設された機能性表示食品制度は、科学的根拠に基づいて健康機能を表示できる仕組みとして発展してきました。届出件数はすでに7,000件を超え、国民生活に広く浸透しています。しかし市場拡大とともに、製品の品質管理や安全性、根拠データの信頼性といった課題も浮き彫りになりました。今後は、この制度を“第二段階”へと成熟させる取り組みが本格化していきます。
安全性の確保と「GMP」の要件化
まず注目されるのは、サプリメント形状の加工食品に対してGMP(適正製造規範)の遵守が要件化される点です。これまで推奨にとどまっていた製造管理が、今後は食品表示法に基づく「遵守事項」として位置づけられます。
原材料の受け入れから出荷に至るまでの各工程で、濃度や衛生環境を記録し、品質の安定を保証する仕組みが求められます。消費者庁による立入検査や届出者の自主点検も導入され、製造現場の透明性と説明責任が一層強化される見通しです。
GMPの導入は、医薬品業界ではすでに一般化している考え方であり、食品分野においても「安心して摂取できる体制づくり」を社会的責務として明確化する動きといえます。
情報開示と健康被害報告の義務化
制度の信頼性を高めるため、健康被害の情報提供の義務化も進みます。従来は努力義務とされていた健康被害報告が、食品表示法および食品衛生法において正式な義務となり、医師が診断した場合には、都道府県や消費者庁への速やかな報告が求められます。
この仕組みにより、原因不明の健康被害が広がる前に情報を共有し、被害拡大を防ぐ体制が整備されます。地方自治体と国が連携し、科学的分析結果を公表することで、行政・医療・企業の三者が情報を共有する「安全管理ネットワーク」が形成される見込み。
届出制度の厳格化と科学的根拠の精緻化
新たな制度改正では、届出の審査手続や科学的根拠の提出方法も見直されます。これまで届出から販売まで60日であった期間は、今後は120日に延長される特例が設けられ、消費者庁による慎重な確認が行われるようになります。
また、研究レビュー(システマティック・レビュー)の国際基準であるPRISMA2020への準拠が義務づけられ、エビデンス評価の透明性が国際水準に引き上げられます。
この変更により、事業者は単なる実験結果の引用ではなく、論文データの体系的整理や妥当性評価を求められるようになります。科学的根拠の信頼性を高めることが、制度全体の信用回復につながると期待されています。
デジタル管理と消費者教育
今後は、届出情報や製品データのデジタル管理も進みます。届出内容や安全性情報をオンラインで公開し、消費者が信頼できる情報を自ら確認できる環境を整える方針です。これにより、個々の製品の科学的根拠や摂取上の注意点を、誰もが容易に検索・比較できるようになります。
さらに、消費者教育の分野でも「食生活全体の見直し」「過剰摂取の注意」など、生活者の自律的な判断力を高める啓発活動が推進される予定です。制度の成熟とは、単にルールを厳しくすることではなく、“選ぶ側の知識”を育てることでもあるといえるでしょう。
制度の成熟へ ― 「信頼を積み重ねる段階」へ
機能性表示食品は、医薬品ではなく食品としての位置づけを保ちながら、科学的根拠と透明性によって社会的信頼を築いてきました。今後の方向性は、単なる規制強化ではなく、「科学・製造・情報」の三領域を統合し、持続的に信頼を高める制度運用です。
制度創設から10年を迎える2025年、機能性表示食品は“量の拡大”から“質の成熟”へと舵を切る重要な転換点を迎えています。