【景品表示法コラム】2025年10月に発表された 2件の「有利誤認」に関する措置命令(NOVAランゲージカンパニー/LH株式会社)を検証
投稿日:
2025.10.29
更新日:
2025.10.29
有利誤認が問う「割引表示」の信頼性
― NOVA・カキ小屋に見る“通常価格”の落とし穴 ―
2025年10月、消費者庁は立て続けに2件の「有利誤認」に関する措置命令を公表しました。いずれも“お得感”を訴える価格表示が、実際の販売実態と乖離していた事案です。ひとつは英会話教室「NOVA」、もうひとつはイベント型飲食企画「出張カキ小屋 牡蠣奉行」。
NOVAのケース:常態化した「入会金0円」表示
NOVAランゲージカンパニーは、自社ウェブサイト上で「入会金22,000円▶0円」などと繰り返し表示していました。この「22,000円」は“通常入会金”として提示されていましたが、実際には長期間にわたってその金額を受講者から徴収しておらず、事実上「0円キャンペーン」が常態化していたのです。
消費者庁は、実際には存在しない“通常価格”を基準にした割引訴求は、取引条件を実際より有利に見せるものであり、景品表示法第5条第2号(有利誤認)に該当すると判断しました。
つまり、「普段は2万2000円だが今だけ0円」という構図そのものが虚構だったということです。企業側の意図が「お得感の演出」であったとしても、消費者から見れば「値引きの根拠」が存在しません。継続的に“無料”を打ち出すのであれば、最初から「入会金不要」と明示することが適切だったといえます。
一般的には、「二重価格表示の違反(過去の販売価格)」と認識してよいでしょう。
カキ小屋のケース:根拠なき「通常価格」
もう一方のLH株式会社は、「出張カキ小屋 牡蠣奉行」という移動型飲食イベントで「宮城県産カキ一盛り(約1kg)通常価格1,320円→880円(税込)」とチラシやウェブサイトで告知していました。しかし、同社が「通常価格」とする1,320円で販売した実績はなく、実際には880円や660円で提供していたことが確認されました。
「復興支援価格」「特別価格」といった文言も添えられていましたが、消費者庁はこれを“値引きの根拠がない割引表示”として有利誤認に認定しました。
一見すると単なる宣伝文句のように見えますが、問題は「通常価格」という言葉の重みです。それは単なる希望小売価格ではなく、“実際に相当期間販売した価格”を指します。根拠を欠いた「通常価格」を基にした値引き表示は、誤認を招く典型的な事例とされています。
こちらも「過去の販売価格」に対する「二重価格表示違反」と認識してよいでしょう。改めて、各企業担当者は二重価格表示のガイドラインを今一度、見直す必要があります。
2件に共通する構図 ― 割引の“根拠”を欠いた値引き表現
両事例に共通しているのは、「比較対象となる過去の販売価格への実在性」が問われた点です。景品表示法における有利誤認は、「実際よりも取引条件が著しく有利に見える」表示を禁止しています。つまり、「通常価格」「定価」「入会金」など、消費者が“基準価格”と理解する表示には、実際の販売実績や合理的な根拠が伴っていなければなりません。
継続的なキャンペーン、期間を細かく区切った連続値引き、根拠のない“定価”の設定――これらはすべて法的リスクの要因となります。
近年、教育・美容・健康・イベントなど幅広い分野で“お得”の演出が常態化する中。
「キャンペーン価格」を打ち出す際には、
①実際の販売価格との比較根拠
②表示期間の限定性
など、二重価格表示ガイドラインに則って表示してきましょう。
消費者の信頼を守るために
「安く見せる」ことは一時的な集客には有効ですが、長期的にはブランドの信頼を損なうおそれがあります。“お得さ”は数字の大小ではなく、誠実な透明性によって生まれる時代になっています。
今回の2件の措置命令は、単なる割引表現の問題ではなく、「信頼される価格表示とは何か」をあらためて問いかけるものでした。企業に求められているのは、“売る工夫”よりも“誤解させない工夫”も必要です。
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